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2007年1月24日 (水)

『長い散歩』

昨日のYahooニュースの見出しに「虐待増え養護施設パンク状態」、とあった。
児童養護施設の説明として「保護者がいない、育てられないなどの理由で家庭で生活できない子どもが暮らす」とある。現在3万人の子が入所しており、その内5割の子が虐待を受けた経験があるとのこと。

奥田瑛二監督『長い散歩』に登場する5歳の女の子、幸(さち)も実母から暴力とネグレクト(育児放棄)の虐待を受けている。またこの少女は同居する母親の若い愛人からも性的暴力の可能性を感じ取り怯えている。

緒方拳扮する元校長、安田松太郎は少女を暴力下から連れ出し「ほんものの青い空」を見せる為に連れ立って旅に出る。
長い散歩
松太郎にとっては、大切な家族であったはずの妻をアルコール依存症から死へ追いやり、娘から「人殺し」とののしられるようになってしまった自分の来し方を見つめ直す旅でもあった。

子どもの虐待という深刻な社会問題を扱いながら、映画全体から受ける印象はファンタジックなもの。
その要因のひとつと思われる、散りばめられた美しい自然には惹かれるが、ストーリーや細部がリアリティに乏し過ぎることはとても気になった。

ファンタジックな要素も含めてさまざまな救いをもたせた展開(たとえば幸が声を上げて笑うようになる、旅の具体的な目的「ほんものの青い空とわたあめのような雲、白い鳥」を見ることを果たす、刑事が2人の心情を理解するなど)は鑑賞している私にも大いに救いとはなったのだけれど、そうした中でなぜか1人の若者には死を選ばせいる。

旅の道連れとなるワタルというザンビアからの帰国子女(男の子)、貧困やエイズ、紛争で毎日バタバタと人が死んでいくのを目の前で見てきた若者は日本の社会に馴染めずにいる。
そのワタルが彼を慕う幸(と松太郎)の前でピストルにより自死を遂げてしまう。

もっと説明がほしい場面、逆にこれは余分かな、という場面は少なからずあるけれど、この若者の死が一番(不自然で)不本意。死なせたくはなかった・・・。
(松田翔太が演じる魅力的な子だった)

また私は実際に虐待を受けている場面(壁越しに)やその子に接したことがあるのだけれど、胸がひきさかれるような苦しさと痛みに襲われた。この映画の虐待場面ではそうした感情は全く湧き上がってこない。これもまた「救い」なのだろうか?

さて、テーマもさることながら、緒形拳ファンとしては期待十分での鑑賞。「緒形拳を主役にした映画を撮りたかった」と監督は語っていたのだ。
だけど・・・熱演ではあったけれど、独特の凄味に欠けていたところがちょっと残念かな。

とはいえ総合的には「現実はこんなもんとちがうやろ~」とつっこみたくはない、ひとつの作品としてのおもしろさがあると思う。

映画は松太郎が刑務所から出所するシーンで終わる。(でもこの犯罪、実刑にはならんやろ~?)
松太郎のどこか吹っ切れたような表情を見ながら、あの少女は再び家庭で虐待にあっているか、または児童養護施設に入所となっているのだろうなぁ、とたちまち実際的な思いに心は飛んでいった。

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コメント

実刑・・・幼児虐待から救ったと証言すれば、まずありえなさそうな実刑判決でしたよね。三月以上七年以下の懲役というのが判例らしいけど、情状酌量が加わるだろうから余程弁護士がしっかりしてなかったというところでしょうか・・・それとも虐待の事実は隠し通したか・・・

投稿: kossy | 2007年2月23日 (金) 21時23分

kossyさま、コメントありがとうございます。
つっこみ、深いところまで追求されますね。
裁判というものが正義によって裁かれないということは、『それでもボクはやってやってない』で鮮やかに見せてもらいましたけど・・・、それにしてもこのケースで実刑はちょっと考えにくいです。

松太郎にはひとつのことを為し終えたというある種の満足感はあるでしょうが、幸にとっても松太郎との旅が生きることの支えになっていく、と信じたいです。

投稿: りん | 2007年2月24日 (土) 16時37分

TBありがとう。
松太郎のその後はどうなるんでしょう。
静かに余生を暮らすのか。もう一度、娘のところに帰るのか。サチに会いに行くのか。いろいろ、考えさせられはします。

投稿: kimion20002000 | 2007年3月21日 (水) 22時08分

kimion20002000さん、こんばんは。
コメントいただきありがとうございます。
松太郎のその後、サチの生きていく道のり・・・、本当にいろいろ思いを馳せてしまいます。

子どもへの虐待は確実に増えているように思います。親たちにもとっても、生きていくことも子を育てることもむつかしい社会になってきたようです。

投稿: りん | 2007年3月22日 (木) 01時11分

 こんばんは♪
 TBどうもありがとうございました。

 サチはあのあとどうなったのでしょうね。。
 幸せであってほしいと祈るばかりです。

投稿: miyukichi | 2007年8月 3日 (金) 01時45分

miyukichiさん、こんばんは。
サチもお母さんも幸せであってほしいですね。
鑑賞から随分日が経っていますが、コメントいただいてまたくっきりといろいろなシーンが浮かび上がりました。
空と山、きれいでした。

投稿: りん | 2007年8月 4日 (土) 23時58分

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