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2007年2月19日 (月)

『善き人のためのソナタ』

『善き人のためのソナタ』フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督。
梅田シネ・リーブルにて鑑賞。

1984年の東ベルリンを舞台に、旧東ドイツのシュタージこと、秘密警察・諜報機関である国家保安省の実態を描きながら物語は進行する。
人口1700万に過ぎない国にシュタージ職員は約9万人。
それ以外に、相互監視のしくみを作り出すことになる職場や家庭における民間情報提供者が17万人。
社会と日常のすみずみにまで、国家権力が入り込んでいる。
そこでは、たとえ才能や実力があっても国ににらまれるとたちまち社会的地位や職業を失い、生きる場を見つけられなくなる。

多角的に明らかにされる実態は衝撃的なものではあるけれど、映画はそこにばかり焦点をあてたものではない。
国や社会がどのような状況であれ、人は懸命に生きようとする。音楽や書物、演劇などの美しいものに心震わせ、愛する者との日常を慈しむ。たいていの者は善き人でありたいと願う。
そうした普遍的な人の姿を描き出している。

ヴィーラー大尉は、仕事に忠実ながら無表情で孤独に生きるシュタージ局員。
劇作家のドライマンと同棲相手である舞台女優のクリスタの住むアパートの1室に盗聴設備をはりめぐらし、徹底した監視を始める。
盗聴を通じて接するドライマンとクリスタの人間としての赤裸々な喜びや苦悩、また書物や音楽に、ヴィーラー大尉はしだいに心引き寄せられていく。

ドライマンを心から愛しながらも、保身の為に裏切ってしまうクリスタ。
それでいて自身でその裏切りに耐え切れなくなる・・・。

体制の中で生きて来たドライマンは失意で自死した友人に関わる義憤から、国家に対してある反逆を企てる。
徹底した監視下におかれていることに気が付かないドライマンが、それを成功させることは本来なら絶対に無理なこと、それを可能にさせたものは・・・。

サスペンスとしての要素も十分なストーリー、個性を存分に発揮させた役者たち、哀切を帯びた美しい音楽、特に秀逸なラストの場面まで2時間半を全く飽きさせない。
鑑賞後もなお切々とした余韻を残させる。

1990年、西ドイツに吸収されるという形で統一され姿を消した「東ドイツ」。
今その体制に真正面から向かい合う優れた映画が製作されたこと、それを鑑賞できたことをとてもうれしく思う。

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コメント

コメントありがとうございました。

感想を書ける文才がないので、皆さんのブログをお借りしてやってます。
この映画はほとんどネガティブなコメントはありませんでした。
劇場が少ないのが残念です。

また、参考にさせてもらうかもしれませんが、よろしくお願いします。

投稿: ロイ from 週末映画! | 2007年2月22日 (木) 23時28分

ロイさま、こちらにコメント頂きありがとうございます。
おじゃまさせて頂きましたが、ブログそのものも楽しまれているように感じられ、爽やかな印象を受けました。
こちらこそよろしくお願いします。

投稿: りん | 2007年2月23日 (金) 19時43分

こんにちは。
大道芸観覧レポートという写真ブログをつくっています。
映画「善き人のためのソナタ」もとりあげています。
よかったら、寄ってみてください。
http://blogs.yahoo.co.jp/kemukemu23611

投稿: kemukemu | 2007年3月 9日 (金) 22時48分

kemukemuさん、こんばんは。
ちょっとのぞかせて頂きましたが、写真ステキです。
演じる人も見る人も、共に表情がとてもいいことに驚きました。
子どもばかりでなく、大人さえも・・・。
日本のどこかで、こんないい時間が流れているのですね。
また、ゆっくりおじゃまさせて頂きます。

投稿: りん | 2007年3月11日 (日) 18時56分

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