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2008年3月 1日 (土)

『パパ ママ バイバイ』

朝日新聞夕刊の【惜別】、
昨夜の記事に土至田勇(どしだいさむ)さんのことが載っていた。1月に亡くなっておられたよう。訃報には気付かなかった。

1977年9月27日、神奈川県の厚木基地から飛び立った米軍機が、住宅のある地域に墜落。
『パパ ママ バイバイ』はそのときのことが描かれた絵本。

作:早乙女勝元 
画:鈴木琢磨
詩:門倉詇

文体はやさしいけれど、描かれている状況や経過、巻き込まれた家族たちのことは何度読んでもカッと熱くなる。

Papamama ・・・・・・・・・・・・
長さ十八メートル、重さ二十六トンものジェット機が、最大限のスピードで激突し、大爆発したのですから、たまったものではありません。機体は翼も胴体も、ことごとくジュラルミンのかけらとなって空中高く舞いあがり、無数の火の玉となって降りそそぎました。エンジンの一つは、なんと九十メートルも吹っとび、林さんの家には翼の一部が飛びこんできました。
しかも、火の玉は、降ってくるばかりではなかったのです。
ドラムカン六十五本にもおよぶ満タンのジェット燃料は、墜落地点から扇のようにひろがって、ガスバーナーの炎のように地をなめ、樹木をかんで走り、火炎帯となって、どっと近所の家々におそいかかったのでした。(P.10-11)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この「林さんの家」は、土至田勇さんの娘、和枝さん一家の住まいだった。
孫にあたる3歳のユー君は病院に運ばれ、やけどの痛みから声をあげてもがき苦しみ、やがてはかすかな「バイバイ」の声を残して亡くなる。
弟で1歳になったばかり、まだ痛みを伝えることばも知らない「ヤス君」も、「ポッポッポー」とかぼそく歌いながら、後を追うように亡くなる。

和枝さんは、全身8割近い大やけど。
「子どもたちも頑張っている」、それを支えに(子どもたちのことは、和枝さんの症状が重すぎるので知らされてはいなかった)ものすごい痛みが伴う薬浴療法や皮膚移植に耐え続けたという。
それでも1988年には31歳の若さで命尽きてしまう。

パラシュートで脱出していたジェット機のパイロットは、直後に自衛隊のヘリが救助している。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(ヘリは、)
「地べたにうずくまっている火ぶくれの人や、まだ燃えさかる樹木や人家にはおかまいなしに、ワッサワッサとプロペラを回転させ、またたくまに空高く舞いあがって、消えてしまいました。」(p.14)
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【惜別】の記事にも、土至田勇さんは「米軍、そして米兵だけを助けて去った自衛隊への怒りは生涯消えなかった。」とある。

「ジェット機の墜落」自体も恐ろしいけれど、血まみれになっている幼い子たちを放置できる「体質」はもっと恐ろしい。

土至田勇さんは無くなるまでの30年間、娘さんの無念を伝え続けたという。
沖縄での米兵による少女暴行では、また怒りと悲しみを新たにされたのだろうか。
自衛隊イージス艦「あたご」による漁船やそこに乗る人を、まるでゴミを蹴散らかすかのようにした航行とその結果を知らずに亡くなられたのは幸い。

『パパ ママ バイバイ』には、【惜別】の切抜き記事を添えておこう。
絵本と共に時おり読み返し、ほんの少しでも「無念」を私も誰かに伝えていきたい。

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コメント

りんさま
「パパ ママ バイバイ」を教えてくださってありがとうございます。
そのような事件があったことをあらためて考えさせられました。
自衛隊は怪我を負った市民より、米兵を優先したのですね。
この国の体質そのもの・・・だとしたら、本当に恐い国です。

投稿: おひさん | 2008年3月 2日 (日) 21時46分

おひさんさま、こんばんは。
『パパ ママ バイバイ』に込められたものは、深く重いです。
命」というものの輝き、いとしさ、人の強さや愛の深さ、また善意も十分に描かれています。
それだけに、それを打ち砕き踏みにじるものの恐ろしさ、醜さも強く感じます。
ぜひ、おひさんさまもお手元にお取りくださいませ。

投稿: りん | 2008年3月 2日 (日) 23時29分

「パパママバイバイ」って、小学生の時にみた映画です。
たまに、ふと思い出すんです。
今は2人の子供を持つ、母となりました。
戦争だけではなくとも、犠牲者がいることを
ちゃんと、子供たちに教えて行きたいと思いました。
このお母さんは、精神病院に政府から入れられて
そこで亡くなったとか…。
戦後30年以上経っていても、軍国主義は消えていなかった
のですね…。
この胸の痛みを共感できる方がいて、嬉しかったです

投稿: レナママ | 2008年9月25日 (木) 17時19分

レナママさん、こんばんは。
感性豊かな時期に刻まれたものは、生涯心の糧となりますね。
(また反面心の傷となってしまうこともあるのですが)
レナママさんは、現在そんな時期の子どもさんを育てておられるのですね。
どうぞ子どもさんたちには、たくさんの本を読み、たくさんのお話もしてあげてください。

『パパ ママ バイバイ』の和枝さん、ユー君、ヤス君一家のようなことは余りにむごいです。
きょうは、米原子力空母が横須賀に入港しました。また大きな不安を抱えることになってしまいました。

投稿: りん | 2008年9月25日 (木) 23時12分

初めまして、名前の通り沖縄に住んでるものです。この事件は小学生のときに↑の本を読んで知りました。沖縄にも基地があるので↑と似たような事件事故が頻繁に起こるので悲しみと怒りでいっぱいです。最近では米兵が基地の近くの民家に勝手に入られたことがありました。
勇さんが亡くなる一週間前「あふれる愛を継いで」という本を読みました。和枝さんは亡くなる直前夫・一久さんと離婚しましたが、一久さんとその家族(和枝さん親子と一緒に巻き込まれたが和枝さん同様に助かった義妹・早苗さん、勇さんより先に嫁と孫の元に逝かれたと思われる姑)のその後やユー君ヤッ君の十三年忌がちょうど平成に変わった年だったこと(勇さんや一久さんにとって一番皮肉な年だったでしょう)が書かれてなくてちょっと物足りなかったです・・
神奈川にある基地全部、熊本に移転すればいいと思いました。熊本人には勇さんや一久さんの悲しみや苦しみがわかりませんから。

投稿: 沖縄人 | 2008年11月 9日 (日) 23時15分

沖縄人さま、初めまして。
大阪に住む私はおそらく勇さんや一久さん、そして沖縄に暮らす人たちの悲しみや苦しみ、怒りはわかっていないのでしょうね。
知ること、想像することしかできません。
でも、できるだけ知りできるだけ想像し、ほんの少しだけでも痛みと怒りを共有したいです。

神奈川や沖縄、という地域のことではなく日本と日本に暮らす者すべての問題なのだということを心に刻んでおかなければいけませんね。
基地など、どこにもないのが一番良いこと(当たり前のこと)だと思います。

投稿: りん | 2008年11月10日 (月) 20時50分

痛ましい事故ですね。ただ、本の表現は明らかにある種の意図に基づいた曲解が見られます。

まず自衛隊の航空救難は「要請があってはじめて活動できます」
つまり、『子供達を救助する任務を負う一義的に負うのは消防や警察』であり、これらの組織が手に負えない状況であると認識した上で、自衛隊に要請しはじめて自衛隊は出動できます。

ではパイロットの救助はなぜ迅速に行われたのか?簡単な話です。戦闘機のパイロット救助を目的とした組織であるからであり、24時間待機していたのです。

子供達を救助するために24時間待機しているのは、消防と警察です。

>「ジェット機の墜落」自体も恐ろしいけれど、血まみれになっている幼い子たちを放置できる「体質」はもっと恐ろしい。

そしてさらに重要な点。自衛隊のヘリコプターがパイロットを優先したことは確かなのでしょうが、脱出したパイロットは機が飛行中に射出座席で放り出されます。分かりますね。墜落地点まで機は無人で飛行しているわけで、墜落地点にパイロットが居るはずがないのです。つまりヘリコプターの救難員がパイロットを回収した時点で子供達を認識できる筈がありません。

また、消火能力のないヘリコプターにその場に残って活動に当たれと言うのも無理な話でしょう。

この作品は痛ましい事故を伝える以外の、ある種の極めて思想的な目的が明らかに含まれています。

http://www.youtube.com/watch?v=GiOYZGzvRxk
自衛隊員も私たちと変わらぬ人間です。私には彼らが好きこのんで子供達を見捨てたとは思えません。

投稿: ADF | 2012年2月20日 (月) 00時49分

ADFさん、こんにちは。
ほったらしのブログにコメントいただきありがとうございます。
コメントいただいたことで、愕然としたのは私の中でこの記事はもちろん本に関しても記憶が薄くなっていたことです。「深く感じたはずのこともコレか・・・」と自分を恥じる思いです。
改めて絵本を取り出し再読しました。

不条理で悲しい事故で奪われた命や穏やかな暮らし・・・。
あふれてくる涙とともに、この不条理さはあってはならないこと、とやはり強く思います。

「怠惰な感性」にカツを入れてくださったADFさんに感謝!です。

投稿: りん | 2012年2月23日 (木) 12時15分

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