« テーブルが「まっさら」に戻った! | トップページ | カーテンができた。 »

2008年6月13日 (金)

『コタンの口笛』

友人が札幌に住んでいたので、若い頃いく度か北海道を訪れている。
それなのに一度もアイヌ文化に触れる機会をもたなかった。
アイヌ民族を先住民族と認定するよう政府に求めた国会決議への動きを知る中で、今更ながらそのことを残念に感じた。
知らないことは山ほどあるけれど、「アイヌ民族」のこともそのひとつ。
アイヌの人と出合う機会もなく、また関連書籍や映画、何ひとつ読んでいないし観てもいない。
あきれてしまうほど無関心できていたということ。
コタンの口笛
遅ればせながら、手始めにアイヌを描いた『コタンの口笛』(石森延男):講談社「青い鳥文庫」を読み始めた。
そしてどっぷりはまっている。

笠原肇氏の解説によると、この本は森延男という作家の「美術論」であり「自然論」であり「教育論」であり「平和論」であり「宗教論」でもあり、そのほかにもさまざまな思想がつまっているとのこと。
児童文学なのでその解説も具体的でわかりやすい。
たとえば、「美術論」については、「絵」という芸術はどういうものでなくてはいけないか、どういう気持ちで美術作品を鑑賞すべきか、という意見が述べられていると解説されている。
また「教育論」については、教育とはどうあらねばならないか、先生は子どものなにをわかってやるべきなのか、との意見が述べられているとのこと。

物語は、アイヌの子として差別や貧しさに苦しみながらもけんめいに生きる中学3年のマサと中学1年のユタカという姉弟の心もようを中心に描かれていく。
そこにからめられていく、関わりのある人たちを通した美術、自然、教育、平和、宗教などに関する描写は共感ばかりでなく、教えられることがいっぱい。
アイヌ独特の文化や習俗に関する記述も、物語の展開のなかに巧みに組み込まれているので、決して押し付けがましくない上に表面的なものに終わっていない。

読み始めてすぐにそそられたのは、「アイヌ音楽」。

「うれしいときには、うれしいようにうたい、悲しいときは、また悲しいようにうたうことのできるふしぎな歌 」と表現されている「ヤイシャマ」。
また、口にあてて弦を引きながら音を出す竹でできた「ムックリ」という名前の楽器や、「トンコリ(五弦琴)」・・・、聴いてみたい、見てみたい!(できればその文化が育まれたアイヌの地で)

本を読むとき、特に惹きつけられた箇所に付箋を貼る習慣がある。
全4巻の3冊目に入ったところだけど、既にこれは付箋だらけ。

その一箇所を抜粋。

図画を教える谷口先生がマサに話す。
「どうして樹木は美しいんだろう、考えてみたことあるかね。」
「動物たちは、かって気ままに動きまわる、走りまわる。おちつかないからだよ。精力を使いはたすからだよ。ところが、樹木はどうだ。いったん根をおろしたが最後、自分の力では微動だもしない。その場所でのみ、せいいっぱい生きのびようとする。どんなに細かいこずえも、そこだけの空間を楽しむんだ。葉っぱという葉っぱは、一枚残らず日光を浴びようとして勢ぞろいをする。芽から葉を、花をさかせる、わずかな変化を、どれほどだいじにしているか。無言の生き方が、あのように、樹木を、いきいきと美しくさせているのだよ」

アイヌのことを知りたいという動機で読み始めた『コタンの口笛』。
アイヌやアイヌ文化、その歴史への関心が深まったのは予測されたことだけれど、自分の心にぐっと食い込む描写が惜しげもなく散りばめられていたことはうれしい驚き。

すっかり引き込まれ、少しの時間でもむさぼるように読んできたが、実は現在ちょっと中断。
マサとユタカの父イヨンが亡くなるところで涙がぼろぼろこぼれて読み進めなくなった。
もちろんその場面表現も「かわいそう」という感情だけを引き出す表層的なものではなく、人の死という意味合いが、しっかり書き込まれている。
それでも、読者に過ぎないのだけど、私はこの悲しい「事実」が受け入れられない・・・。

母についで父をもなくしたマサとユタカは、また前を向いて歩き出すのだろう。
その二人の強さに助けられ、しばらくしたら私も先へと読み進んでいこう。

『コタンの口笛』は1957年に世に出た作品とのこと。
このように優れた児童文学に子どものときに出会わなかったことはとても悔しいけれど、
今出会えたことを感謝しよう。乏しい感性をもしっかり刺激してくれるのだから。

たくさんの子どもたち(や大人)に読んで欲しい本であるのに、もはや絶版で、図書館や古本でしか入手できないことも残念。
この本のおかげで、ほんの少しは身近になった「アイヌ民族」のこと、もっともっと知りたいし感じたい。

|

« テーブルが「まっさら」に戻った! | トップページ | カーテンができた。 »

コメント

またすてきな本を、絶版とは残念です。
観光でアイヌ村には行った事があるけど、観光だから
ただ上っ面を眺めてきただけで、お恥ずかしい。
ただ自然と共にいきている人たち位しか、認識が
なく、本当に失礼な話だ。りんさんが感動した本、
読んでみたいです。そういえば最近本を読んでいないな。
いつもステキな?情報ありがとうございます。

投稿: ななぼう | 2008年6月14日 (土) 18時53分

ななぼうさん、こんにちは。
本当に、読みたい本、子どもたちに読んで欲しい本がいっぱい絶版になっています。
残念ですねぇ~。

私はアイヌの人たちのこと、「上っ面」も知りません。
沖縄もそうですが、「本土」は心理的な距離も相当なものがあるのでしょうね。
在日韓国朝鮮の人たちや、「部落」民に対する差別は多少なりとも実感はあるのですが、対「アイヌ」となるとさっぱりです。
『コタンの口笛』はとても読みやすいです。ななぼうさんも図書館などで手に入れていただいて、お仕事の合間にぜひどうぞ。

投稿: りん | 2008年6月15日 (日) 13時37分

りんさん
こんばんは。
過去に読んだアイヌ関係の本の一つに知里幸恵『アイヌ神謡集』(岩波文庫)があります。
アイヌに伝わるユーカラと呼ばれる口承叙事詩を著したもので、アルファベットで表記されたアイヌ語と日本語を併記して書かれています。その中の一つ「銀の滴(しずく)降る降るまわりに」というユーカラはとても美しいアイヌ語で書かれています。わたしはアイヌ語は全くわかりませんが、アルファベットを声に出して読んでみるとその美しさに驚きます。
もしも興味がおありでしたら、ぜひ一度お読みください。
『コタンの口笛』、わたしも図書館で探してみます。貴重な情報、どうもありがとうございます!

投稿: koji | 2008年6月16日 (月) 00時45分

こんにちは。
「コタンの口笛」子供のころにその本を見た覚えがあります。けれど、読んだことはなかった。音に関しては、アイヌ民族の娘さんの演奏するムックリを聞いたことがありますが(大阪で)、マイクをとおすと幻想的で深い響きです。
世界には、この手の楽器「口琴」と呼ばれていますが、幾種類か私も持っています。ジューズハープという金属製のものもあります。アイヌのムックリは音を出すのが難しいかな。インドネシアのは簡単ですが。

ふと、自然豊かなところで鳴らすといい感じですね。

投稿: pianocraft | 2008年6月16日 (月) 10時35分

おはようございます。読みたくなってきました。この本,名前は知っていましたが,読んだことはないのです。また図書館頼みですね。きっと。引用してくださったところだけでも,魅力が伝わってきます。ご紹介ありがとうございました。

投稿: KATEK | 2008年6月17日 (火) 06時36分

kojiさん、こんばんは。
知里幸恵さんのことも全く知らなかったのですが、19歳で夭折されたのですね。
遺されたものに触れることができるのは、とてもうれしいです。
さっそく注文しちゃいました。
手元に来たら、「アルファベットを声に出して読んでみる」、やってみます。
教えていただいて、ありがとうございました。

投稿: りん | 2008年6月17日 (火) 18時54分

pianocraftさん、こんばんは。
同年代ではこの本のこと、ご存知の方が多いようです。私はさっぱりでしたが・・・。

さすがに、楽器にお詳しいですね。
「自然豊かなところ」、できればアイヌの地で聴きたいですが、近くでもし演奏会などがあれば出かけていきます。それもなければCDかDVDで。
(もしpianocraftさんにお目にかかる機会があれば、幾種類かの口琴、聴かせていただくことできる・・・かな?)

投稿: りん | 2008年6月17日 (火) 18時57分

KATEKさん、こんばんは。
もうすぐ読み終えてしまいますが、作品から感じ取れる作者の人間性と表現力にとても惹かれます。
読んでいる途中、幾度かKATEKさんのこと、思い出されました。
共通するイメージ、ありますヨ。
読まれたら、またブログで感想などご紹介くださいね。

投稿: りん | 2008年6月17日 (火) 18時58分

『コタンの口笛』読み始めました。いま最後の4冊目です。アイヌコタンにいってみたり,少数民族博物館にいってみたりしたことはあったものの,この本は素通りしていました。りんさんが引用されているところ,わたしもいいなぁと思ったところです。美術や音楽がこういうかたちで「教え」られていたらいいなぁとも思いました。この本のなかでは子どもたちが,深い文化に触れる機会がたくさんあります。こういう環境づくりが今の子供たち全員に必要だと感じました。アイヌのことだけでなくいろいろ教えてくれる本に出会えてよかったです。ありがとうございました。

投稿: KATEK | 2008年8月13日 (水) 22時41分

KATEKさん、こんばんは。
私はこの本をとても楽しく読み通すことができましたが、その時から「KATEKさんが読めばもっともっと読みとれるもの、感じとれるものがあるだろうなぁ」と思っていました。やっぱり、ね。

文体はちょっと古めかしいけど、今の子たちも興味をもって読み続けるのではないでしょうか。子どもたちに読んでほしい本のひとつです。絶版になったなんてとても残念。

投稿: rin | 2008年8月16日 (土) 21時20分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/200019/21604525

この記事へのトラックバック一覧です: 『コタンの口笛』:

» 【文化】 スパイク・リー「映画"硫黄島からの手紙"に、黒人兵士が出てない」→クリント・イーストウッド「黙れ!」→さらに…★2 [【究極の宗教】Physical Mankindism【PM】 by Humitaka Holii (堀井文隆)]
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1213323163/ [続きを読む]

受信: 2008年6月13日 (金) 20時37分

« テーブルが「まっさら」に戻った! | トップページ | カーテンができた。 »